角刈りとの死闘

大理へ向かうバスよりはまともな状況だった。走り出すまでは。

ターミナルでバスを待つ際、売店で一番キワモノ系に見える飲み物を購入して虾鬼へ渡したが、これは不発。一昨年に桂林で飲んだコーヒーコーラ並みの期待倒れのものだった。他愛も無い馬鹿話をしているうちにバスが到着。昆明には 4 時間程度で着く予定だ。

行きのバスは運転手は神だったが、今回の運転手はどうだろう。また、行きのバスでは DVD 野郎が同乗していたが、今度のバスには DVD というかディスプレーがない。こりゃ本でも読んで寝てるほかないな。ただやはり何の仕事をするのか不明な同乗者がいる。別にヤツは DVD をかけたりしないので、DVD 野郎と呼ぶわけにもいかず、角刈りと呼ぶことにする。

途中、うつらうつらしていると、突然大音量で中国の演歌のようなものが掛かった。何事かっ!! 見ると角刈りが CD を操作している。角刈りは歌を口ずさんだりしているので、どうもこれはヤツの趣味だ。心地よい眠気が抗われ、大量のアドレナリンが噴出する。「おい、うるせぇよ」と大声を出してみる。日本語で言ったのは俺がチキンだからか。「うるさい」の中国語は知っていたが、それを大声で口にしたら角刈り以外の周囲の客とも対決しなくてはならない恐れがあった。

パンダさんに「眠れねぇから音量下げてくれって伝えてくれないか」と告げたが、もうすぐ休憩だからととり合ってくれない。
この攻撃に 10 分以上さらされ、いよいよ切れようかというタイミングで SA に寄っての休憩になった。
バスを降りる際、角刈りと運転手に「おい、うるせーよ、音量下げろ。眠れねぇだろ!!」と言ってみたが、結局、この拷問が終わったのは休憩が終わってしばらくしてだった。途中、何度と無く角刈りに向かって「音下げろって言ってんだろ、この野郎」と罵声を浴びせていたが、その効果があったためかどうかは定かではない。

休憩後、しばらくして、バスは何度無く急停車するようになった。
何でも燃料がないらしい。無いといってもそれがどの程度なのか、目的地へ着かないかもしれないレベルなのか、あるいはエンプティすれすれなのかが分からない。そんな状況でよくバスを出すもんだと感心する。まさに見切り発車だ。
汶川大地震ですぐ北側にある四川省に重点的に燃料を送っているため、雲南では軽油が不足しているそうで、ガソリンスタンドにも軽油がない状況らしい。
運転手同士がケータイや無線で「●●のガソリンスタンドに軽油が入荷されるらしい」という情報をやり取りして、タンクローリーが来る前からガソリンスタンドにバスが列を作って並ぶという異様な状況なのだ。
俺たちを乗せたバスも、そうした情報を得て、軽油が入荷されるというガソリンスタンドで並ぶこととなった。
並ぶといっても、整然と並んだりしないのがこの国のお国事情。バスでも熾烈な割り込み合戦が繰り広げられる。

右隣のバスと盛んに列の位置を争い、角刈りも檄を飛ばしていたが、残念ながら俺様たちのバスは負けてしまった。

そんなことをしていたからか、昆明についたのは 2 時間遅れだった。